大阪高等裁判所 平成7年(ネ)2139号 判決 1995年12月20日
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 被控訴人は控訴人に対し、一〇七万五八八七円及び内一〇〇万円に対する平成七年二月一日から、三万八三八七円に対する同年四月七日から、内三万七五〇〇円に対する同年二月一四日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 控訴人のその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
三 この判決は一項の1に限り仮に執行することができる。
理由
【事実及び理由】
第一 控訴の趣旨
原判決を次のとおり変更する。
被控訴人は控訴人に対し、一〇七万五八八七円及び内一〇三万八三八七円に対する平成七年一月一八日から、内三万七五〇〇円に対する同年二月一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 事案の概要、前提事実、争点は、原判決の「第二 事案の概要」の一ないし三記載のとおりである(ただし、原判決四丁裏二行目に「滅失」とあるのを「損壊」と改める。)から、これを引用する。
なお、以下の日時は特に記載しない限りすべて平成七年である。
二 争点に関する当事者の主張
1 控訴人の主張
(一) 事実の経過についての主張は、原判決の第二の四の1の(一)記載のとおりである(ただし、原判決七丁表三行目の末尾に改行し、「(11) 被控訴人は、本件建物の修復を断念し、神戸市に依頼して既に取り壊した。」を加える。)から、これを引用する。
(二) 争点1(本件建物の損壊)及び争点2(本件居室の賃貸借契約の終了事由)
(1) 本件居室の賃貸借契約書の一二条一項には、目的物件が使用不能になったとき、あるいは天災地変、火災等によって損壊したときは、本契約は当然に効力を失うとの約定がある。
本件居室は、阪神・淡路大震災による被害により、その当日である一月一七日、居住用の目的としては使用不能となり、賃貸借契約の目的が達せられない状況になったから、右約定にいう損壊により右契約は終了した。
(2) 仮に、本件居室は阪神・淡路大震災による被害にもかかわらず損壊したといえない場合でも、本件居室の賃貸借契約書の一四条には、借主は契約期間中でも一月間の予告期間を置くことにより、自由に解約の申入れをすることができるとの約定があるところ、控訴人は、一月三〇日、被控訴人に対し本件居室の賃貸借契約の解約申入れをしたから、二月二八日をもって右契約は終了した。
(三) 争点3(本件駐車場の賃貸借契約の終了事由)
本件駐車場は、阪神・淡路大震災による被害により、一月一七日、利用不能となり、控訴人と被控訴人は、一月三〇日、本件駐車場の賃貸借契約を合意解約した。
なお、控訴人は、三月二三日、被控訴人に対し、右駐車場の鍵を返還した。
(四) 争点4(保証金からの控除)
(1) 本件居室の賃貸借契約書の一二条二項には、目的物件が使用不能になり、あるいは天災地変、火災等によって損壊することにより右契約が効力を失った場合、貸主は借主に対し、保証金全額を返還するとの約定があるところ、右契約は、阪神・淡路大震災による目的物件の損壊で失効したから、被控訴人は控訴人に対し、保証金全額を返還すべきことになった。
(2) 仮に、本件居室の賃貸借契約は、控訴人が一月三〇日被控訴人に対し解約申入れをしたことにより終了したとしても、本件においては敷引する合理的理由がないから、敷引することは権利の濫用であり許されない。
(3) 被控訴人が主張する本件居室及び本件駐車場の賃料、賃料相当損害金は、そもそも発生していない。
仮に、一月一八日以降も本件居室の賃料債務が発生したとしても、本件居室は、控訴人の責めに帰すべきでない事由により全面的に使用収益ができない状況になったから、その支払義務は免除されるというべきである。
また、仮に、本件駐車場の賃料債務が発生したとしても、被控訴人は、一月三〇日、控訴人に対し、同日以降の賃料を免除した。
2 被控訴人の主張
(一) 争点1(本件建物の損壊)
本件建物は、阪神・淡路大震災により相当の被害を受けたが、本件居室の賃貸借契約終了事由にいう損壊や滅失にはあたらず、修繕可能な状態であった。
本件建物の補修は、三〇〇〇万円から三二〇〇万円程度の費用でできるとのことであったが、一階部分のジャッキアップをする工事業者が限定され、しかもその工事業者が優先的に公共施設の工事に従事していたため、本件建物の修繕工事がいつになったら着手可能であるか見当がつかなかった。その間大小の余震が続き本件建物の歪みがだんだんひどくなったため、被控訴人は、六月上旬に取り壊す決意をし、七月一五日、本件建物を取り壊した。なお、被控訴人は、七月末ころ、本件建物の滅失登記申請手続をした。
(二) 争点2(本件居室の賃貸借契約の終了事由)及び争点3(本件駐車場の賃貸借契約の終了事由)
本件建物は、阪神・淡路大震災により相当の被害を受けたが、本件居室の賃貸借契約終了事由にいう損壊や滅失にはあたらない。
また、本件居室及び本件駐車場の各賃貸借契約には、一月以上の予告期間を置いて、所定の書面により解約申入れをすることができる旨の約定があるから、控訴人が右各賃貸借契約を解約したいのであれば、右約定所定の手続に従ってなすべきところ、控訴人は右手続をしていないから、控訴人主張の時期には右各賃貸借契約は終了していない。
(三) 争点4(保証金からの控除)
本件居室の賃貸借契約には、貸主は借主の退去時に預託保証金一〇〇万円から三〇万円の敷引を控除した残金を返還する、貸主は借主の債務不履行があるときは保証金をもってその弁済に充当することができる旨の約定がある。
また、控訴人は、本件居室内から必要な家財道具、衣服等を持ち出したが、なお、不要な家財道具類を放置し、所定の解約手続をとらずに本件居室を占有していた。
したがって、被控訴人は、本件居室の保証金から、敷引三〇万円のほか、未払賃料又は控訴人が本件居室を倉庫のかわりに使用していることによる賃料相当損害金を控除することができるところ、未払賃料等を控除すると、被控訴人が控訴人に返還すべき金員はない。
第三 判断
一 本件居室の保証金返還請求について
1 保証金の預託
引用にかかる前提事実のとおり、控訴人は、被控訴人に対し、本件居室の保証金として一〇〇万円を預託したことが認められる。
2 保証金返還についての約定内容
《証拠略》によれば、本件居室の賃貸借契約には、賃貸借契約が終了し、借主が目的物件を明け渡し、借主が契約上の債務の履行を完了した後、一か月以内に、保証金一〇〇万円から退去時控除額三〇万円を差し引いた残金を返還する旨(四条二項)、貸主は借主に債務不履行があるときは、その損害額を保証金から控除することができる旨(四条三項)定められていること、また、目的物件が使用不能になり、あるいは天災地変、火災等によって損壊したときは、右契約は当然効力を失い、借主は直ちに目的物件を明け渡す旨(一二条一項)、その場合、貸主は借主に対し保証金全額を返還するが、借主に債務不履行があるときは、その損害額を保証金から控除することができる旨(一二条二項)約定されていることが認められる。
なお、被控訴人は、本件居室の賃貸借契約には、貸主は借主の退去時に預託保証金一〇〇万円から三〇万円の敷引を控除した残金を返還する旨の約定があると主張するところ、右主張は、一二条二項が例文である趣旨とも解されるので検討する。
確かに、《証拠略》によれば、本件居室の賃貸借契約書の表紙に続く二葉表本文一頁には、判り易く大きな文字で、保証金一〇〇万円、退去時控除額三〇万円と記載されているのに対し、右一二条二項の約定は、二葉裏に小さな文字で多数の条項が記載されている中にあること、また、控訴人の原審供述によれば、控訴人は、阪神・淡路大震災の直後は本件居室の賃貸借契約書の敷引に関する条項の記載内容を知らず、一月三〇日、本件居室内で右契約書を発見し、右条項の存在を初めて知ったこと、さらに、被控訴人の原審供述に弁論の全趣旨を総合すると、本件建物は八戸からなり、いずれも賃貸に供されているところ、本件居室を含む本件建物の各戸の賃貸借契約は、複数の仲介業者によって仲介されており、それぞれの賃貸借契約は、それを担当した仲介業者の用意した賃貸借契約書を利用して作成されていること、各賃貸借契約において、家賃、保証金の金額は共通であるが、天災地変による建物損壊により賃貸借契約が終了する際の保証金返還については、全額返還すると記載されているもの、全額返還しないと記載されているもの、何も記載されていないものがあって、阪神・淡路大震災の後、貸主である被控訴人としては、賃借人間の不公平を感じ苦慮していたことが認められる。
しかし、契約書に記載された位置、文字の大きさにより、その条項の効力が直ちに左右されるものではないし、また、当事者が賃貸借契約を締結するに際し契約書記載の多数の契約条項のすべての内容を十分吟味せずに締結しても、その種の契約書にはしばしば記載される条項で、かつ、不合理な内容でない限り、包括的に契約書の条項を了承して契約を締結したものというべきところ、天災地変による建物損壊により賃貸借契約が終了した場合には敷引をせず保証金を返還するとの約定も、阪神地区の建物賃貸借契約書には少なくない(公知の事実)うえ、それ自体直ちに不合理なものとはいえず、さらに、契約内容が一棟の建物の複数の居室の各賃借人により各別になされたため異なったとしても、契約内容自体は個別に判断されるべきものである以上、控訴人と被控訴人間において締結された本件居室の賃貸借契約書上の一二条二項の条項を、単なる例文であるとし、合意の対象とはなっていなかったものとして、その効力を否定することは許されない。
そうすると、控訴人の本件居室の保証金請求は、賃貸借契約の終了事由により、その控除額が異なることとなる。
3 賃貸借契約の終了事由と時期(争点1及び争点2)
(一) 前項のとおり、本件居室の賃貸借契約には、目的物件が使用不能になったとき、あるいは天災地変、火災等によって損壊したときは、右契約は当然に効力を失うとの約定がある。
右にいう損壊とは、賃貸借契約の終了事由として定められていることに照らし、損傷により建物としての社会経済上の効用を喪失し、賃貸借契約を存続させることが社会通念に照らし相当でないと判断される場合をいい、建物の主要な部分が物理的に消失した場合はもちろんであるが、損傷した部分の修復が通常の費用によって可能な場合であっても、地震等により付近一帯の建物が損傷した等の事情により修復に時間を要するような場合には、当該建物の被災状況のみならず、地震に直接間接に関係した地域全体の被災状況や置かれた状況等の諸般の事情を総合考慮し、賃貸借契約を存続させることを相当とするような期間内に修復が可能か否か等の事情を加味して判断すべきである。
(二) 《証拠略》を総合すると、次の事実を認めることができる。
(1) 本件建物は、建築後年月を経過していない鉄筋コンクリート造四階建、一階はガレージ、二階以上は総戸数八戸の賃貸マンションで、本件居室は三階の一室である。
(2) 一月一七日未明、阪神・淡路地方を大地震が襲い、地震とその後発生した火災により広範な地域で多数の建物、道路等が損壊・焼失し、付近の高速道路も損壊し、鉄道も長期間不通となる大災害が発生し、その後もしばらくの間中小の余震が続き、高速道路の復旧は未だになされていない(公知の事実)。
本件建物は、右大地震により、一階部分の鉄骨柱(特に建物正面向かって右側の柱)が建物内部で折れ曲がり傾いた状態になったほか、一階部分は階段、床、天井にも崩れた部分があり、二階ないし四階部分の駆体部分は右側に傾いて一階部分に落ち込むような状態になった。
なお、神戸市は、本件建物は全壊した旨のり災証明書を発行した。
(3) 被控訴人は、本件建物の補修の可能性を検討し、四月下旬ころ、複数の工事業者に対し補修の可否の検討と見積もりを依頼したところ、本件建物の一階部分のみの解体及び修復も可能で、その補修費は三〇〇〇万円から三三五〇万円程度、修復工事に要する期間は約七五日間とされたが、右補修内容は、構造体部分の再建築工事などの見積もりが別途とされたり、復旧補修設備工事を除くとするなど再度本件建物を賃貸に供し得る状態まで復旧する工事全部ではなく、右状態にするには更に相当の費用と期間を要するものと考えられた。また、一階部分のジャッキアップをする工事業者が限定され、しかもその工事業者が優先的に官公庁、鉄道、道路等の公共施設の工事に従事していたため、本件建物の補修工事は、平成八年三月以降でなければ着工できないといわれ、着工時期の目処が立たないような状況であった。
(4) その間大小の余震が続いたことなどもあって、本件建物の歪みがだんだんひどくなり、このまま放置すると自然倒壊の恐れもあったため、被控訴人は、六月上旬に取り壊す決意をし、六月一〇日に神戸市に解体を申請したが、神戸市が取壊し予定とした平成八年二月一九日を待たず、みずから知人の業者に依頼して、平成七年七月五日ころには本件建物の取壊しに着手し、同月一五日ころまでにはこれを完了して敷地を更地化した。なお、その費用のうち約一六〇〇万円は神戸市が負担した。
(5) 本件建物と同様の規模の建物を建築するには二億円以上を要する。
(二) 以上認定説示した、阪神・淡路大震災の災害規模・状況、本件建物は阪神・淡路大震災により大きな損傷を受け、その三階に位置する本件居室も床面が傾いて社会通念上そのままで居住目的に使用することはできなくなったこと、震災後しばらくの間は物理的・技術的には修復可能であったものの、その後も緩慢ながら傾斜が進行し自然倒壊の恐れもある中、広範囲に甚大な被害を受けた地域状況や復旧への取組状況ないし優先順位などに照らし、本件建物の補修を平成七年内に行うこと自体困難な状況にあったこと、仮に修復工事に着手できても、その補修費用は設備工事なども含めて再度本件建物を賃貸に供し得る状態まで復旧する工事全体のためには三〇〇〇万円をはるかに超えることは明らかであるが、それ以上どの程度の額になるかは直ちに予測し難く、建替費用が約二億円以上を要することを考慮しても、本件建物取壊費用は公費で負担することに照らすと、社会経済上、本件建物を取り壊すことの方が有利であるとの判断も合理性があること、被控訴人は本件建物を七月一五日ころ取り壊したこと等を総合考慮すると、本件建物は、一月一七日、地震により多大な損傷を受けた結果、賃貸用居室建物としての社会経済上の効用を喪失し、その一室である本件居室の賃貸借契約は、その趣旨が達せられない状況のため存続させることが社会通念に照らし相当でなくなったと判断すべきである。そうすると、本件居室は、損壊し、これにより本件居室の賃貸借契約は当然に終了したというべきである。
4 本件居室の保証金からの控除の有無(争点4のうち本件居室の保証金関係)
(一) 退去時控除額三〇万円について
前認定事実によれば、本件居室は阪神・淡路大震災により損壊し賃貸借契約は終了したから、同契約一二条二項により、控訴人は被控訴人に対し、他に債務不履行により控除される金額がない限り、保証金全額である一〇〇万円の返還請求権を取得したことになる。
(二) 未払賃料について
前認定説示のとおり、本件居室の賃貸借契約は、一月一七日に終了したから、控訴人には未払賃料はない。
(三) 賃料相当損害金について
前認定のとおり、本件建物は一月一七日地震により大きな損傷を受けて損壊し、その三階に位置する本件居室も床面が傾いて社会通念上そのままで居住目的に使用することはできなくなったが、倒壊は免れ存続していたこと、神戸市により全壊の認定を受けたこと、控訴人は、同月三〇日、本件居室から、衣類等携帯可能な品物を持ち出したが、それ以外の家財道具類を持ち出すことは事実上不可能であったため残置し、被控訴人に本件居室内に残存している家財道具類一切の所有権を放棄する旨伝えたこと、被控訴人は、七月五日ころには本件建物の取壊しに着手し、同月一五日ころまでにはこれを完了したことの各事実が認められる。
右事実によれば、本件建物自体損壊のため危険な状態にあり、家財道具類の搬出は事実上不可能であったから、本件居室は居住目的のほか家財道具類の保管場所として使用することもできない状態であったというべきで、本件建物取壊しまでの間、控訴人が本件居室に家財道具類を残置し、搬出しなかったことをもって、賃貸借契約終了による明渡義務の不履行責任はもちろん、本件居室の無権限使用による不当利得をし、他方、被控訴人が賃料相当の損害を被ったと認めることはできない。
5 遅延損害金の始期
控訴人及び被控訴人の各原審供述によれば、控訴人は、一月三〇日、被控訴人に対して本件居室の保証金の返還を求めたことが認められる。そうすると、被控訴人は、右請求権につき、二月一日以降遅延損害金を支払う義務を負うと解される。
6 まとめ
以上によれば、控訴人は、本件居室の保証金返還請求権一〇〇万円及びこれに対する二月一日以降支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を有することになる。
二 本件居室の前払賃料及び共益費返還請求について
1 前払賃料及び共益費
前提事実のとおり、控訴人は、被控訴人に対し、平成六年一二月末日までに、平成七年一月分の本件居室の賃料八万円、同共益費五〇〇〇円、合計八万五〇〇〇円を支払った。
2 未経過期間に対応する金額
前記認定のとおり、本件居室の賃貸借契約は一月一七日終了したところ、前項の前払合計金額のうち、一月一八日から同月三一日までの期間に相当する金額は、三万八三八七円である。
3 遅延損害金の始期
控訴人は、前記の前払賃料及び共益費のうち未経過期間に対応する金額を請求したのは、本訴状によるところ、本訴状が四月六日被控訴人に送達されたことは記録上明らかである。そうすると、被控訴人は、右請求権につき、訴状送達の翌日である四月七日以降遅延損害金を支払う義務を負うと解される。
4 まとめ
以上によれば、控訴人は、前払賃料及び共益費のうち未経過期間分の返還請求権三万八三八七円及びこれに対する四月七日以降支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を有することになる。
三 本件駐車場の保証金返還請求について
1 保証金の預託と返還の約定
前提事実のとおり、控訴人は、被控訴人に対し、本件駐車場の保証金として七万五〇〇〇円を預託したところ、本件駐車場の賃貸借契約には、被控訴人は、控訴人に対し、本件駐車場の明渡時に三万七五〇〇円を控除し、残金三万七五〇〇円を返還する旨の約定がある。
2 駐車場の賃貸借契約の終了事由と時期(争点3)
前認定事実に《証拠略》を総合すると、控訴人は、本件駐車場に乗用自動車を駐車していたが、隣地建物からの落下物のため移動できない状態となったこと、一月三〇日、本件居室から衣類等携帯可能な品物を持ち出したが、それ以外の家財道具類を持ち出すことは事実上不可能であったため残置し、同日、被控訴人と話し合った際、本件居室の保証金返還を求めたほか、本件居室に残存している家財道具類一切の所有権を放棄する旨を伝え、他方、被控訴人から、隣地建物からの落下物の処理が済むまでは本件駐車場の賃料を支払う必要はないと言われたこと、二月一三日、本件駐車場から右自動車を移動し、以後本件駐車場を使用していないこと、被控訴人からの返還請求に応じて、三月二三日、本件駐車場の鍵を郵送して返還したことが認められる。
右事実のほか、本件居室の賃貸借契約が既に終了していることに照らすと、本件居室の賃貸借契約の終了と本件駐車場の使用不能に伴い、控訴人と被控訴人は、一月三〇日、本件駐車場の賃貸借契約を合意解約したと認めるのが相当である。
3 本件駐車場の保証金からの控除の有無(争点4のうち本件駐車場の保証金関係)
(一) 未払賃料について
前認定事実によれば、本件駐車場の賃料は、その賃貸借契約が終了した一月三〇日以後は生じないし、地震発生後右終了までの間は、本件駐車場は使用不能であったから、控訴人に賃料支払義務はないというべきである。
(二) 賃料相当損害金について
前認定事実によれば、本件駐車場の賃貸借契約が終了した一月三〇日から控訴人が二月一三日本件駐車場から自動車を移動するまでの間、控訴人の自動車は、本件駐車場に置かれていたが、右の間、本件駐車場は使用不能であり右自動車を移動することもできない状況にあったから、右自動車を置いて移動しなかったことをもって、賃貸借契約終了による明渡義務の不履行責任はもちろん、本件駐車場の無権限使用による不当利得をし、他方、被控訴人が賃料相当の損害を被ったと認めることはできない。
4 遅延損害金の始期
前記のとおり、本件駐車場の賃貸借契約には、被控訴人は、控訴人に対し、本件駐車場の明渡時に三万七五〇〇円を控除し、残金三万七五〇〇円を返還する旨の約定があるところ、控訴人は、本件駐車場を二月一三日に明け渡したことが認められる。そうすると、被控訴人は、右請求権につき、右明渡しの翌日である二月一四日以降遅延損害金を支払う義務を負うと解される。
5 まとめ
以上によれば、控訴人は、本件駐車場の保証金返還請求権三万七五〇〇円及びこれに対する二月一四日以降支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を有することになる。
第四 結語
以上のとおり、控訴人の本訴請求は、本件居室の保証金返還請求権については一〇〇万円及びこれに対する平成七年二月一日以降支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、前払賃料及び共益費のうち未経過期間分の返還請求権については三万八三八七円及びこれに対する四月七日以降支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、本件駐車場の保証金返還請求権については三万七五〇〇円及びこれに対する二月一四日以降支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で認容し、その余は棄却すべきところ、これと異なる(ただし、前払賃料及び共益費のうち未経過期間分の返還請求権については原審と同額であるが、賃貸借終了に伴う金員の返還として保証金返還と訴訟物を同じくすると解する。)原判決主文一ないし三項を本判決主文一項のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九二条、八九条に従い、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 志水義文 裁判官 高橋史朗 裁判官 納谷 肇)